CRPS,カウザルギー、RSD

痛み(疼痛)に対する後遺障害は12級又は14級となります。これはどんなに強い痛みでも12級の認定に留まるという意味になります。しかしこれとは別に「特殊な疼痛」に該当する場合は、7級、9級、12級が認定されます。特殊な疼痛とはカウザルギーまたはRSDに該当する場合です。

特殊な疼痛

長期間続く痛みを慢性疼痛といいます。そして、外傷が原因で生じる慢性的な疼痛には様々な呼び名が存在しますが、慢性の神経障害性の疼痛を複合性局所疼痛症候群(CRPS)といい、これらを後遺障害では「特殊な疼痛」として通常の疼痛とは異なる取り扱いをしています。

医学は日々進歩し、その時代によって呼称も変化します。CRPSはかつてタイプ1とタイプ2に分類されCRPSタイプⅠを反射性交換神経性ジストロフィー(RSD)、CRPSタイプⅡをカウザルギーと呼んでいました。しかし、近年ではこの分類では説明できないCRPSの報告などでその分類の有用性が疑問視され、慢性の神経障害性の疼痛は単にCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ぶようになりつつあります。

もっとも、交通事故の後遺障害認定基準上では、CRPSが後遺障害と認定するためにはカウザルギーかRSD(反射性交換神経性ジストロフィー)どちらかの基準に当てはまらなければなりません。すべての神経障害性の慢性疼痛はこの基準にあてはめられて等級が判断されます。逆に言えば、この基準に当てはまらなければ等級非該当という判断もあります。

認定基準上のカウザルギーとは

後遺障害認定基準ではカウザルギーを次のように説明されています。

カウザルギーと呼ばれる症状があります。カウザルギー症状とは外傷後に生じるとても強い痛みです。特徴は病的に長期に渡り強い痛み、灼熱通(焼けるような痛み)が続き、知覚の異常や筋力の低下などの神経症状が伴うことです。

カウザルギーは神経の不完全損傷によって生じるとされています。神経の不完全損傷の場合は、神経の断裂のように完全な麻痺が生じるわけではなく、ちょっとした知覚の異常や初期では気づかない筋力の低下などが生じることもあり、見逃される場合もあります。(自賠責でカウザルギーが後遺障害とされるには交通事故によって神経が損傷されたことを裏付けのある説明を行わなければならないので、この説明が一番難しいものとなっています)

認定基準上のRSDとは

慢性期の主な3つ(関節拘縮、骨の萎縮、皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮))のいずれの症状も健側と比較して明らかに認められる時に限定して、カウザルギーと同様の基準によってそれぞれ第7級の3、第9級の7の2、第12級の12と後遺障害を認定します。RSDはきちんと立証をすれば確実に等級が取れる後遺障害です。

反射性交感神経性ジストロフィー/ Complex Regional Pain Syndrome

その外傷の大小を問わず、その外傷とは不釣り合いな痛みが長期に渡り発生する症状をCRPS(複合性局所疼痛症候群)と言うときがあります。このCRPSは様々な症状が人それぞれに発症することもあり、ジストロフィー、肩腕症候群、ズディック、慢性神経痛などの色々な診断名がつけられているのが現状と言われています。

CRPSは灼熱痛、アロディニア(感覚敏感)、膨張、皮膚の異常、筋力低下、関節可動域制限という症状が認められるとされており、痛みの中でもCRPSにみられる特徴的で代表的な症状です。CRPSの診断には2つの基準があります。

国際疼痛学会のCRPSの診断基準では、次のようにCRPSの診断基準が設けられています。

1,何らかの外傷を受けて持続性の疼痛が生じていること
2,少なくとも4項目のうち3項目に1つの症状があること
感覚異常:感覚過敏、なにかが触れた程度でも異常な痛みを感じる

血管運動異常:皮膚温の左右差、皮膚色の変化、皮膚色の左右差
発汗異常/浮腫:浮腫、発汗の変化、発汗の左右差
運動異常・萎縮:可動域の低下、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)、萎縮性変化(毛、爪、皮膚)

3,2つ以上の項目に1つ以上の徴候(他覚所見)があること
感覚異常:疼痛過敏(針で刺すことに対して)、感覚異常(軽い接触、温冷刺激、体部の圧刺激、関節運動に対して)
血管運動異常:皮膚温の左右差(1℃超)、皮膚色の変化、皮膚色の左右差
発汗異常/浮腫:浮腫、発汗の変化、発汗の左右差
運動異常・萎縮:可動域の低下、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)、萎縮性
変化(毛、爪、皮膚)

4,他の診断に当てはまるもので無い事(CRPS特有)

日本でのCRPS判定の指標(厚生労働省CRPS研究班からの提唱)

A)病期にいずれか2項目以上の自覚症状が有ること。ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮腫

B)診察時において,以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること。
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮腫

CRPS、RSD、カウザルギーの違い

呼称、診断名はときに治療方針を決めるために重要な場合があります。診断名に基づいて最も効果的で実績のある治療方法をいち早く行うことができるからです。

しかし、CRPSなどの分類については、実際に治療を行うペイン神経内科などの痛みの専門医からすると「重要ではない」と言います。それは症状に応じて適切に判断しながら治療を行っていくだけだからだと言います。その結果、「この薬は効果が認めらたがあの薬は効果が無かった」「この治療法が効果的だった」という積み重ねで、卵が先か?鶏が先か?と同じ

特殊な疼痛がどれに該当するのか判断が必要なときに、それぞれに該当する基準と照らし合わせて判断されることになります。自賠責が判断する後遺障害はカウザルギーとRSDの基準であって、そもそもCRPSか否かタイプの別の違いはそもそも関係ないという事になります。